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【読書感想#14】美人論/井上章一 大量の文献と情熱が注がれた一冊!文章を書く人はぜひ一読を!

美人論 (朝日文庫)

『美人論』
大量の文献の引用と考察で書かれていて、文献以上に大量の情熱が注がれた一冊。「自分が読みたい文章は他人も読みたい文章」とはこういう事かと教えてくれました。文章を書く人はぜひ一読を!

読書感想

元電通コピーライターの田中泰延氏が著書「読みたいことを、書けばいい。」の中で『書くために読むといい本』として10冊の本を紹介していた。

「読みたいことを、書けばいい」で感銘を受けた私は、彼が紹介する本を読んでみたいと思って、そのリストをチェック。

紹介されている本には田中氏の感想が書かれていて、その感想に「長い」という単語があるものが多かった。


私が「長い」という単語を気にするのは、こんな理由がある。

田中氏は著書『読みたいことを、書けばいい。』のなかで、「書くことの本来の楽しさと、ちょっとのめんどくささ」を伝える書いていた。

ところが、読み終えた私の感想は「ちょっとじゃなくて、かなりめんどくさわ!」だった。

彼の「ちょっと」が、わたしの「かなり」である。

彼が「長い」と感想を持つような本を手に取ったら、わたしには永遠に読み終わらないかもしれない。


わたしには仕事を終えたあと、お風呂掃除をするという日課がある。

これは大切な仕事で、わたしがお風呂掃除をしないと、お風呂は綺麗にならない。

お風呂が綺麗にならないと、家族が悲しむのである。


読書が永遠に終わらないと、お風呂掃除をできなくなる。

家族が悲しむ顔を見るわけにはいかない。


諦め半分でリストをチェックしていたら、書評に「長い」という文字がなく、それでいて面白そうな本があった。

井上章一の『美人論』だ。


『美人論』 井上章一

井上章一の文章は、ねっちこい。たぶん日本で一番ねちっこい文体を駆使する人では無いかと思う。

彼は建築史の学者なのだが、畑違いの話に学者としての方法論で挑むことが持ち味だ。その仮説の立て方、資料の揃え方、そして展開の仕方が、ねちっこくてスリリングなのである。

この本は女性の美醜について語る本では無い。「世間がどんな女性のどんな概念に対して美人というレッテルを貼ったか」「その美人はどう扱われてきたのかの歴史」の研究だが、読者は読み進むうちに「あれっ?」という倒置の中に立つことになる。
この手法そのままに、国家によって「精神がおかしい人は無罪」という判決は下されるようになったのはなぜかを推理する『狂気と王権』では、さらにスリリングな思考実験が展開されている。
(田中泰延『読みたいことを、書けばいい。』2019年」


この書評のなかに「長い」という文字は1つもない。

この本を手に取ってもお風呂掃除はできそうだ。


わたしは『読みたいことを、書けばいい。』を読んでいて、田中氏の文体をねちっこいと感じていた。

そして、その文体をとても面白いと思った。

ねちっこい彼が日本で一番ねちっこい文体と称する井上章一氏の『美人論』。

どれだけ ねっちこくて面白いのか、ぜひ読んでみたいと思って手に取ったのである。



「美人論」という、フェミニズムを刺激するような。ある意味タブーなテーマだからかもしれないが、個人の主観はとても少ない。

90%以上が「美人」について書かれた文献の引用。そして、その文献の考察で出来ていると言っても大げさでは無い。

引用と考察の繰り返しだからなのか、ねちっこい。

とんでもなんく、ねちっこい。

たしかに日本で一番ねちっこい文体かもしれない。


文献の多さ。ねっちこい文体。

『美人論』を一冊を読み終えた後には、何冊も読み終えたような読了感があった。


『美人論』の著者である井上章一氏は、文献を漁っているときも、執筆しているときも、とても楽しんでいたんだろうことが、本書から伝わってきた。

そして、私もとても楽しんだ。 すごく面白かった。

「自分が読みたい文章」は「他人も読みたい文章」とはこういう事だと、わかった気がする。


これだけの文献を漁ったのは『自称面食い』の彼の『美人』への情熱の現れなのだろうか?

わたしも、これくらいの情熱を注いだ文章を一度は書いてみたいと思った。

『美人論』は、間違いなく『書くために読むといい本』だった。

文章を書く人に、ぜひ一読してほしいと思う。



ちなみに『美人論』を読み終わるまで3時間半。

想像よりも2時間ほど長かったですが、お風呂掃除はしっかり終えました。


*田中泰延「読みたいことを、書けばいい。」の読書感想はこちらです

www.il-magnifico.com

書籍の情報

美人論 (朝日文庫)

美人論 (朝日文庫)

タイトル;美人論
著者:井上 章一
出版社:
発売日:2017年6月7日
価格(税抜):740円
読み終わるまで;3時間30分

江戸時代、女は容姿ではなく、心のきれいなことが重要だとされ、明治以降には美人であることは悪いことだと言われ、戦後は美人であることは肯定され、それと並行して、美人の意味は広がり、昨今ではCMで「すべての女性は美しい」と喧伝されている。この美人・不美人をめぐるレトリック。面食い男を愚かとさげすむ正義の正体とは何なのか? 「美人」の取り扱いが変わってきた時代背景を、膨大な資料を読み解き徹底調査した問題作!

<出版社の紹介ページより引用>
朝日新聞出版 最新刊行物:文庫:美人論

追伸

ツイッター(@ketsuakira)でも書評をつぶやいていますので、試しに見てみてください。

最後まで読んでくれて、ありがとうございました。